一般社団法人国際心理支援協会主催「令和2年公認心理師現任者講習会」にご登壇いただく講師の先生方に、
「公認心理師の役割」をテーマにインタビューさせていただきました。その内容をご紹介させていただきます。
ぜひご覧ください。
(ここで紹介する講師が、お申込みされる現任者講習会の会場で科目担当されるかについては、スケジュール発表後にご確認ください)


2.「公認心理師の役割」

講師紹介
杉山 崇(すぎやま たかし)
現職:神奈川大学教授
日本認知療法・認知行動療法学会幹事、公益社団法人日本心理学会代議員、など学術団体の役職のほか厚生労働省など行政に関わる委員も務める。


インタビューアー
:本日は、杉山先生に「公認心理師の役割」というタイトルで、お話をお伺いしたいと思います。それではよろしくお願いします。それでは、公認心理師の役割について、先生のお考えを聞かせてください。

杉山:家族療法や対人関係療法とかね、H,S,サリヴァンってすごいなって思います。人間ってやっぱり人間に反応する。コミュニケーションや周りの人の関わり方を変えると、心ってそれだけでだいぶ安定すると思う。だから、そういうアプローチが主流になっていく方が、サービスを受ける方にとっても良いと思います。自分だけが変わっても周りが変わらなければ、またすぐに戻ってしまうじゃないですか。だから、そういうアプローチがどんどんとね、ユーザーからも認知されて提供できるようになれば効果的ではないかと、個人的には思いますね。

インタビューアーアメリカでは、カウンセリング・サイコロジストというのが修士までで、その上が博士でサイコセラピストになる。カウンセリングとサイコセラピーとを分けている。日本も分けたほうがよいのかではないかと僕は思っていて、というのも、カウンセリングはカウンセリングで重要なんだけど、カウンセリングって傾聴がメインになので、様々な心理療法が知られないということがあるなと。

杉山:そうですよね。

インタビューアー:名前で分けたら、これはカウンセリング、これは心理療法って、心理療法はいろいろあると認識していただけるのかなと。

杉山:日本だとカウンセリングは「≒傾聴」、つまり、気持ちに寄り添うという意味で認知されていますよね。確かに、気持ちを無視するわけではなくて気持ちに寄り添うんだけど、心理職っていうだけで、気持ちに寄り添うっていうステレオタイプを向けられるっていうことがあって。

インタビューアー:話を聞いているだけだと思われることってありますね。

杉山:はい、でもそれだけではないですよね。もうちょっと社会に認知されると我々もできることが多くなるのかなと思う。

インタビューアー:まず、知られてないということですね。知られてないので、来るはずがないですよね。

杉山:そうですよ。その通り。

インタビューアー:知らせる努力が必要ですね。それが、これから公認心理師になってできるかもしれないということですね。

杉山:これまで臨床心理士も頑張ってきたことはあるんですけど、公認心理師は国家資格なんでね。あと、広く国民にアプローチするように謳われているので、もっと知らせる努力をしたらいいなと思う。

インタビューアー:それこそ、杉山先生がメディアに出るっていうのは非常に重要ですね。

杉山:メディアに出て目立つと批判がでるので、最初はためらっていました。それで2010年の「ほんまでっかTV」の依頼は断ってしまった。2019年は引き受けましたが。誰かが出て心理学に期待してもらわないとね。あと、良質な心理学を届ける努力を誰かがしないと、誰にも届かないので。私がやっていることが良質かどうか分からないですが、少なくともそうあろうと心掛けています。同じような努力をする人が増えて、心理職の社会的認知が上がって、公認心理師だけではなく、心理学の研究者が広く活躍できるような社会になったらいいなと思います。ということで表に出たのですが、やっぱり表に出ると様々な批判は出てきますね。

インタビューアー:編集の仕方もいろいろありますよね。新聞とかテレビとかは難しいですね。雑誌とかね、自分でチェックができるのでいいですよね。

杉山:おかげさまでテレビはね、私の意図してない編集の仕方はされてないです。むしろ、他のメディアの方で乱暴なカットのまとめ方をされたことがあります。それは困ったのですけど。自閉症スペクトラムについて取材を受けたが、自閉症スペクトラムの昔の理論で、過剰男性脳仮説があったんですよ。その仮説の話をしたら「その仮説ってどんな仮説ですか?」と質問されたので、「相対的にですけど、女性より男性の方が注意の切り替えが下手とか、なにか集中したら没頭しちゃう、忘れちゃうとか、そういうことが男性の方が相対的に多いので、自閉症スペクトラムのことを過剰男性脳というふうに考えた人が昔いたんですよ。現在ではあまり使われてないんですけどね」と話した。そうしたら、その仮説を紹介してもいいかと聞かれたので、「紹介の仕方もありますけど、あくまで仮説だということで紹介してくださいね」と言ったのですが、「男性のほとんどは自閉症スペクトラム傾向である」とまとめられてしまったのです。

インタビューアー:それはたいへんでしたね。

杉山:しかもそれ、誰も見ていなければよかったんですけど、それなりに目立ってました。「これを読んで主人のことが理解できました」とかね、決してネガティブなリアクションが多かったわけじゃないだけど、お願いした形と違うと誤解を招くなと思っていました。

インタビューアー:困りますよね。

杉山:そうですね。それはすごく困っちゃいましたね。

インタビューアー:家族療法で言うと、〇〇病とかアダルトチルドレンとか、家族に問題があるからセラピーをするという文脈で捉えられてしまうことがありますが、そういう風に感じられると困るなというのはありますね。

杉山:そうですよね。私は院生の頃だったかな、家族療法がまだ日本に入りはじめたころ。

インタビューアー:(家族療法は)1980年代、一気に日本に入ってきたそうです。

杉山:ですよね。私が大学院にいったのが90年代前半ですかね。その頃、家族療法の論文をみんなで読みあっていた。その頃の大学院の先生は河合隼雄先生のお弟子さんだったんだけど、その論文を読み怒り出してね。家族療法の失敗ケースだったのですが。なんで失敗したかというと、家族とセッションしている時は家族が協力的で上手くいったとセラピストが思っていたら、そのお父さんがめちゃめちゃ不満だったみたいで、「カウンセラーに家族が悪いと言われた!!」みたいな感じでかなり不機嫌になって、そこで中断した、みたいな感じで紹介されたんだけどね。理解していただくっていうのは難しいですよね。大学院の先生は怒り出しちゃったんだけど、僕はそうではないと思っていて。やっぱり知られてないんだと思います。家族療法的な考え方が。家族には力動があってダイナミクスがあって、その中で、特に子どもは影響を受けやすいから、いろんな影響が形になりやすい。家族のカナリヤが子どもですからね*1。家族という力動の中でいろんなことが起こるという考え方がまだ理解されてなかった時代だったと思う。

インタビューアー:あと、そのセラピストがやっていることが家族療法の全てではないですしね。○○派の家族療法というのがいっぱいありますしね。

杉山:うん。すべてではないですね。あれは何派だったのかな?覚えてないですけど。やっぱり、カウンセリングも心理支援もセラピーも、全部コミュニケーションなので、心理職と対象者が共通のスキーマを持っていないと成功しないと思います。だから、家族療法にしても対人関係療法にしてもそうです。特に認知行動療法は、認知行動療法の人間観に共感してもらわないと技法が成立しない。同じことは家族療法とか対人関係療法とか、いろんなセラピーに言えると思うので、その啓発活動っていうのかな?そこをしないといけない。「そこをしないと」っていうとネガティブになってしまうけど、啓発活動が上手くいけば公認心理師の心理支援を活用していただける場が増えるといいなと思います。啓発活動することで、公認心理師の活躍の場がとても広がり、みんなが幸せに暮らせる日本をご一緒に作っていけたらと思っています。

インタビューアー:そうですね。これから公認心理師を保持する人たちで、明るい未来へつながっていくことを願っています。今日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

【対談日2020年5月16日】

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*1  社会が毒づいたときに強くダメージを受けるヒト。「カナリア」は毒物検知として用いられていた。