一般社団法人国際心理支援協会主催「令和2年公認心理師現任者講習会」にご登壇いただく講師の先生と、弊法人代表理事の浅井が対談を行いました。
ぜひご覧ください。
(ここで紹介する講師が、お申込みされる現任者講習会の会場で科目担当されるかについては、スケジュール発表後にご確認ください)

八巻先生との対談その1

【講師紹介】
八巻 秀(やまき しゅう)
現職:駒澤大学教授
現在、同大学大学院にて臨床心理士・公認心理師養成に携わる一方、「SYプラクティス」や「駒澤大学コミュニティ・ケアセンター」などで、心理臨床活動を行っている。他に家庭裁判所調査官養成課程研修 講師、東京家庭裁判所自庁研修講師、東京保護観察所スーパーバイザー、岩手県総合教育センター・スーパーバイザー、江戸川区教育相談研修講師、国立市教育委員会いじめ問題対策委員なども兼任している。


浅井伸彦(あさい のぶひこ)
一般社団法人国際心理支援協会 代表理事、株式会社Cutting edge代表取締役、IPSA心理学大学院予備校の代表及び講師。公認心理師・臨床心理士・保育士。大阪芸術大学、京都文教大学などでも教えている。公認心理師現任者講習会では、主に「評価と振り返り」の講師もしており、その他複数科目の予備講師としても控えている。関西大学社会学部、京都教育大学教育学研究科(修士課程)を経て現職。専門はオープンダイアローグ、家族療法、EMDRなどのトラウマ療法。


浅井:
本日は、よろしくお願いします。

八巻:よろしくお願いします。

浅井:心理臨床と申しますか、公認心理師、臨床心理士が行っている心理支援の方法というのは精神分析をはじめとして、ユングやアドラーとか、家族療法、認知行動療法、いろいろ学派がありますけど、その中でも八巻先生は特にアドラー心理学とかブリーフセラピーとか、家族療法、オープンダイアローグをご専門にされているかと存じます。そのあたりを選ばれた理由を教えていただければと思います。

八巻:アドラーとかブリーフセラピーとか家族療法とかの考え方を大事に、実際の臨床活動を行っているのですが、駆け出しのころは精神分析と催眠がメインのオリエンテーションだったんですね。ここ新宿ですが(対談した場所)、すぐ近所にあった精神科クリニックで、大学院生の頃から臨床経験を積ませてもらって、そこのクリニックの院長のオリエンテーションが精神分析と催眠だった。そのトレーニングを徹底的に仕込まれました。あと、精神分析セミナーにも通って。それで、トレーニングを積んでいったんですけど、、、
何と言いますか、一生懸命自分の中に取り入れよう、取り入れようとしたんですけど、、、うーん。4,5年頑張って取り組みましたが、結局自分には肌に合わないなって分かったんですよ。そのあたりで、あるセミナーに出会いました。それがブリーフセラピーだったんですね。具体的には、東豊先生のセミナーに出て、本当に衝撃を受けたというか、「あ!これだ!」と思いました。

浅井:
最初は、システムズアプローチだったのですか?

八巻:
そうです。システムズアプローチの考え方を知って、「これだ!」と思ったんですね。それは、なにかというと、今だから言える考え方からすると、人の心を縦でみるのか横でみるのかの違いだと、自分は説明しているんですよ。

浅井:縦か横ですか?

八巻:どういうことかというと、精神分析という考え方は、人の心を、、、ある意味、深層を掘っていく。その掘っていって分析していく。それに対して解釈したり、解釈投与したりとか。人の心の縦を掘っていくことで、真理に突き当たる。それを通して人は癒される。元気になっていくという考え方だと思う。縦の考え方が私はなじめなかったと思う。そうじゃなくて、東先生から教わったのは、人とはコミュニケーション、関係性だからその関係が変われば変わりますよという発想が目から鱗というか、「あ!これだな!」と思った。だから、自分とクライアントの関係とか、クライアントと家族関係が変われば、この問題がどんどん解消していくという動きを重視する考え方というのは、その通りだなって思ったし、こっちなら取り組みやすいなと思った。遡ってみたら、東先生のセミナ―を受ける前にアドラーの本を読んでいたんですね。フロイト、ユング、アドラーは3大巨頭で、フロイト、ユングを一生懸命勉強していたんだけど、どうもついていけなくて。その時、ふっと本屋で出会ったアドラーの本を見た時に「これだ!」と思った。その「これだ!」という感覚は記憶の彼方になっていたんだけど、東先生のセミナーを受けて繋がったんですよね。それが、対人関係論というアドラーの理論なんだけど、人との関係をみていく。横をみていく。そこら辺の考え方は自分に合っているなとおもってきて、それでどんどんどんどん勉強していった。調べてみたら、東先生も若かりし頃はアドラー派の野田俊作先生の研究会に参加していたらしい。

浅井:
そうですか。

八巻:やっぱりつながっているだなぁと思いましたね。だから、自分の中で縦でみる見方は肌に合わなくて、横の環境でみていく見方っていうのが自分のカウンセリングを行っていく上での基本方針でいいんだなと。その後、どんどんブリーフセラピーとか家族療法を勉強しながら、ますます自分やり方としてあっているのだなと確信をもっていきましたね。

浅井:つまり、縦は時間軸、横は関係性ということですね。

八巻:そうですね。

浅井:システムズアプローチとか、いわゆるブリーフセラピーは操作的な一面があります。ある意味批判的に言われることがあります。その逆として、オープンダイアローグは操作性を一切排除してしまうところがあると思います。そういったところに僕自身もフィンランドに行き学びにいっている。八巻先生の中でそのへんの操作性という観点からすると、どういった心の動きというか気持ちの動きがあってオープンダイアローグに興味を持つようになりましたか?

八巻:ブリーフセラピーで操作性とかで批判の対象になるというのは、私も感じていたんですけど、実はブリーフセラピーで操作に興味を持ったことがないんですよ。これは、また遡って、催眠を学んだ時も肌に合わなかった。肌に合わなかった要因としてコントロールしようとするんですね。催眠って。多くの催眠研究家、催眠臨床家はこうやったらクライエントはこう動くとか、催眠の操作性はすごく話題になっていて。実際、私も催眠臨床やっていて、やっぱりその感覚が合わないんですよ。それは、さっきの縦の時間軸というのともう一つに関係性というか、どっちが上でどっちが下という縦もあるんですよ。操作性っていうのは自分がクライアントを操作する、上位に立つという縦もあるんですよ。それはまったく肌に合わなくて。私は、催眠をやってしばらくしてから「関係催眠」ということをいって、クライアントとセラピストが一緒にトランスを作っていくんだという考え方を持つようになった。「トランス空間」という考え方を出したんだけども。ブリーフセラピーも一緒で、システムズアプローチに一番惹かれては、システムに変えるには自分が変わればいいという考え方があるじゃないですか。これはいいと思いました。クライアントのシステムを変えるのではなく、自分のシステムを変えることによって治療システムという、クライアントとセラピストが作り出すシステムが変わって、そのことによってクライアントが変わる。という考え方が好きでその流れでブリーフセラピーをやっているんですけど。なので、まったくブリーフの操作性に興味がないんですよ。でも、やっぱりブリーフの方はこれやったあれやった技法論に走るところがある。なんでこんなふうにこだわるのかなって違和感はあった。そんな中で、一番それを排除した形でドーンと出てきたのがオープンダイアローグだったんですよ。操作性はなく、ただ対話しましょうと。対話しながらしんどい時があるけれど耐えていきましょうとかね。やっぱりセラピストどうふるまうか、どういうか、というところに徹底的に理論構成されていて、極端な話、居ればいい。対話をあきらめずに続ければいいという発想は操作性という「そ」の字もない。ずっと続いている関係催眠から始まって、アドラーもそうですしシステムズアプローチのシステム論と一緒でまったく違和感がなかったんですね。その操作性というのは、八巻の臨床語録の中にはないですね。どうクライアントと関係を続けられるかというための工夫を見つけていくことが臨床では大事ではないか。結果的に提案をすることによって、クライアントがそこにのってくれれば一緒に動いていくという流れになるけれど、操作という言葉は、私の臨床感覚としては死後になっていますね。答えになってますかね?(笑)

浅井:僕もよく聞かれますけど、システムズアプローチやっているのにオープンダイアローグに行くっていうのは、自分の中でどのように折り合いをつけているの?と言われることがあります。折り合いもなにも別になくて。八巻先生がおっしゃる通りだなと。

八巻:やっぱり、システムズアプローチの一番の本質というか、メインの考え方は自分が変わることだということ思います。自分のシステムが変わることで全体のシステムというかクライアントを含むシステムが変わるということですから、そこらへんを大事にするのがシステムズアプローチなので、その考え方は、オープンダイアローグの中でも活きてますよね。

浅井:そうですね。僕もシステムズアプローチをずっとやってきて、一応専門という形でやっているんですけど、仰る通り、難しいクライアントとか、クライアントが問題と思わずに自分が変われば相互作用が変わって、クライアントも変わるっていう。

八巻:そうですね。

浅井:それで、クライアント良くなってないというのは、全部セラピストが変われてないだけだと考えると、まぁそれが自己否定的な人だったらね「私のせいだ」ってなるかもしれませんが(笑)

八巻:そうならないようにするのも大事ですよね。(笑)

浅井:そうじゃなかったら、こちらがどう変えたらいいのかなって、変える余地が残されるので、いいですよね。

八巻:「困難だ」「このクライアントはこうなんだ」という自分が変わればいいんです。そこがポイントになってきます。どんなケースであっても。どういうふうにクライアントをみていくかという、自分の見方をきめていけばいい。それを決めるのは自分ですよね。セラピストの判断ですよね。